「食生活の疲れ」をいやして食欲増進を

 ふっと「漬物」を食べたくなることがありませんか。78年と93年の家庭における手作り度を見ますとトンカツが74→83、コロッケ40→52、ハンバーグ61→75(いずれも百家庭あたり)と濃厚なものが上昇していますし、コテコテ料理といわれる、すき焼き、焼き肉、酢豚、スパゲティも軒並み増加しています。油と「濃厚味」で「食生活の疲れ」を感じ、極端に言うと何を食べてよいかわからなくなることすらあるのです。「あぁ、漬物でお茶漬けが食べたい」は食通の至言ですが、日本人は大なり小なりこうなっています。
 緑・白・黄の三色対比の白菜漬、四回の冷蔵行程を経て仕上がる野沢菜漬、調味・包装後ただちに冷凍の広島菜漬、高菜漬などの美しいグリーン、新鮮な穫りたて茄子を使い、皮は紫赤色、中は真っ白の茄子の浅漬けと全て明るい外観を保つ調味浅漬け、菜漬群、砂糖しぼり大根や低温の積極利用の干したくあんなど大根素材風味の良さ、低温塩蔵の輸入品の脱塩無き調味による塩蔵浅漬けのフレッシュ感。すべて食欲増進につながります。「生きている感覚」の漬物の生命は野菜の持つ天然色素と香気成分です。その香気をそのまま提供する意味で付けられたのが「お新香」なのです。


 漬物と塩分

 漬物は食塩と切っても切れない関係にあります。漬物は健康食品だと言うと、皆様の頭の中には「高塩」という壁ができて議論以前と思われるでしょう。しかし現実には漬物の食塩は大幅に低下しています。今の日本人は良い具合に高塩ではノドを通らなくなってしまったのです。今、日本人は平均一日12gの食塩を摂っています。そのうち2gを漬物に分けてくれれば、白菜漬で100g、中鉢に山盛りを、干たくあんで60g、そぐように切ってカツオブシをかけて同じく中鉢に軽く一杯食べられます。


 食物繊維とガン抑制

 発ガン性物質の最近の研究で二段階説というものが有力になってきました。イニシエーター(始動)といわれる細胞DNAと結合して遺伝子障害をつくり、正常細胞をガン初期化細胞に変える物質、プロモーター(促進)といわれるイニシエーターによってできた休眠中のガン初期化細胞を刺激してガン細胞に変える物質、この二段階の関与物質によってガンになるのです。外食産業で漬物からサラダへの切替が行われてから、日本人の大腸ガンが増えたと言われています。大腸ガン防止をはじめ人間の消化機能調整には、食物繊維が著効を持つことは知られていますが、ラッキョウ甘酢漬け大玉5〜6個で食物繊維が5gも摂れ、食塩はわずか1gしか体に入らないという事実は全く知られていません。
 食物繊維の効能の第一は大腸ガン等の予防です。これは3つに分けられます。まず食べた有害物質を吸着して排泄すること。有害タール色素をネズミに与えるとき、ゴボウ繊維を加えてやるとその一群はガンが出ず、加えなかった一群はすべてガンになった実験があります。また、油脂を摂る限り食物繊維の組み合わせがないと体内でガンプロモーターができてしまいます。油脂を摂ると消化を助けるため胆嚢から胆汁酸が出てきます。この胆汁酸は食物繊維が多い状態ですと腸内の細菌の働きがよく、油脂を正常に分解してくれます。ところが食物繊維が少ないと腸内細菌の働きが異常になり、油脂を消化する胆汁酸の働きも悪くなり、発ガン物質−メチルクロルアンツーラン類似の化合物ができ腸壁を刺激してガンになるのです。食物繊維を大量に摂ると、腸を刺激して活発に働くことによって排泄速度を早めます。すなわち有害物質が腸壁粘膜に触れる時間を短くします。


 梅干し、梅漬の病原菌の抑制

 梅は完熟すると大小を問わず5〜6%の酸を含むようになります。酸は胃および腸内のPHを下げ、特にふだんアルカリ側を保つ腸内PHを下げ、コレラ原菌を抑制するのです。酸とともに梅干し・梅漬けに含まれている10〜30ppmの遊離青酸が、微妙に有害菌に働いていると思えるのです。杏の仁(種子の中の胚乳)が薬用として賞用され杏林大学・杏林製薬の名まであるのはその青酸の効果で、梅の仁では強すぎるのでそれが使われているのです。梅干し・梅漬けでは無毒の青酸配糖体アミグダリンが酵素β−グルコシダーゼの作用で分解し、青酸と梅の香りベンツアルデヒドになることが知られています。梅のジンでできた青酸は拡散していき、それが健康に貢献するのです。腹痛、食中毒時にすばらしい効果を示す梅肉エキスは100ppmの青酸を含み、それと濃縮されたクエン酸がよいのです。


 ネギ属植物の各種効能

 ネギ属植物が漬物に使われているのニンニク漬、ラッキョウ漬と本格キムチにネギとニンニクを薬味にしているという三つです。ネギ属植物にはこの他、抗菌性、血栓防止、発ガン抑制の三つの効果が研究されています。
 ネギ属は大別すると@ニンニクのように抗菌性の強いモノAタマネギのように切ると涙の出るもの、の二つになります。ネギ属は傷つけられると、細胞中のCS−リアーゼが働いてスルフェン酸というものに分解します。ネギ類の持つこのアミノ酸のアルキル基はごく僅かでこれは他の三つが抗菌性を示すのに対して催涙性を示します。
 ニンニク由来のジアリルチオスフィネート(アリシン)はきわめて強い抗菌性を示します。チオスルフィネートが細菌細胞の酵素蛋白質と結合して酵素としての機能を失わせ死滅させるものとみられます。また、ラッキョウはジメチルチオスルフィネート(メチルアリシン)を生成し、これも抗菌性を示しますがニンニクほど強くはありません。このチオスルフィネートはさらに分解するジスルフィードとなり前述のようにネギ属の臭気の主成分になります。
 最近重視されているのは血小板の凝集を阻害して血栓形成を抑える研究で、その結果ネギ属の大部分は効能があることがわかりました。
 油脂を構成する脂肪酸のうちリノール、リノレン、アラキドン酸の三つは栄養学的に重要で、必須脂肪酸といわれてきました。その中のアラキドン酸は、トロンポンキサンチンA2というものになって血小板を血管壁に粘着させ血栓を形成します。これをニンニクのチオスルフィネートから二次的に形成する臭気物質のメチルアリルトリスフィルド、アホエンという物質が阻害します。そしてこれはニンニク臭の主体のジアリルスルフィドの形成と同時に生成します。
 この他、ラッキョウに含まれるフラボノイド類、ステロイド類は強い発ガンプロモーターを抑制する活性を示すことが明らかにされ、その他のネギ属についても同様の研究が進んでいます。


 たくあんを噛む効果

 食物に発ガン性があっても唾液が抑制するので、唾液を出すため30回の租借をすすめています。また、租借は歯の噛み合わせを良くして歯並びを良くするとともに、胃の負担を軽くし口内の清潔を保ちます。
たくあんはゆで大根の10倍の噛むエネルギーを要し、脳の血流を活発にして頭の働きを高めるとともに、性格の積極性を増すと言われています。


 発酵漬物の乳酸菌

 漬物を食べる目的が食欲増進効果が重視されて、変色や発酵臭や注入液の濁りの目立つ発酵漬物は衰退しました。しかし、乳酸菌の持つ健康効果は大きく、生菌の腸内増殖は有害菌の排除、有効物質の生成、腸内フローラ(菌群)の改善作用、さらに便性改善作用等の整腸作用があるといわれています。また、発酵漬物の1g中の乳酸菌の数が10億個なのに対し、発酵乳は1億個と1桁違います。加えて酪農乳酸菌では腸内に到達しないのに対し、漬物の乳酸菌は腸内生息が可能です。


 生姜のジンゲロールの制ガン性

 日本最古のスパイスである生姜は、発汗、解熱、そして健胃作用の効果から薬用として使われてきました。この生姜には大腸ガンを抑える効果があり、生姜の主成分ジンゲロール0.02%で、生体の遺伝子が発ガン物質にさらされる初期の段階で発ガン物質を解毒するというのです。生姜中のジンゲロールの含量は1〜3%といわれており、日本人が、一日食べる食事量は1.5kgですから、生姜を1日25g食べればよいことになります。


 その他

 漬物中のγ-アミノ酪酸の血圧降下作用があります。制ガン効果ではすでに述べた漬物の食物繊維、ネギ属植物、生姜の他、たくあん・高菜漬けに使われていたターメリック、日本名ウコン、あるいはシソ科植物、そして大根の黄変物質すなわち黄色いたくあん等もそれぞれ持つと報告されています。日本人が米飯と味噌汁、漬物の食生活が普通だった時代から種々の制ガン効果を自然に体得していたのです。